検証甲子園


2010年07月24日 舞洲スタジアム

東海大仰星vs関大北陽

2010年夏の大会 第92回大阪大会 3回戦



田村丈(関大北陽)

好投手の宿命。

 これも運命なのか―――。

 高校生活最高のピッチングを見せた試合が、最後の戦いになるとは……。

関大北陽のエース・田村丈は1失点の好投を見せながら、大会を去ることになった。「この3年間やってきたことをすべて出せたので、悔いはないです」と振り返ったが、いいピッチングを見せただけに、勝てなかったことが悔やまれる。

確かにこの日の田村丈の出来は、素晴らしかった。最高球速145㌔もあるというストレートは、この日は計測しなかったとはいえ、低目に切れ味鋭く決まった。185センチの身長からリーチの長い腕をいっぱいに投げおろす投球フォームは、低目で伸び、球持ちが良いから手が出せない。打者の手元で鋭く曲がるスライダー、これもまた、秀逸。この二種類のコンビネーションは抜群だった。

 圧巻は、8回裏、無死二塁で4番・田上を迎えた場面での投球。2-1から、田村丈が投げ込んだストレートは真ん中低めにズシリと決まった。田上の手が出ない見逃しの三振だった。切れ、コース、スピードどれも申し分がなかった。
 「彼の力があればこれくらいのピッチングはできるものと思っていた」とは関大北陽・新納監督だが、少なくとも、春季大会の5回戦・城東工科にノックアウトされた時の彼と今日の姿は、まったくダブらない。

正直に言って、雑誌などで彼の名前が紹介されるのを頻繁に見たが、その評判ほどに、彼が注目選手だとは思っていなかった。この日のスタンドでのスカウトの数がまばらだったことが、何よりの彼への評価だろう。記者席でも、スタンドでも、「こんないいピッチングをする田村を初めて見た」という声が聞こえたほどである。彼の評判には半信半疑な部分があったわけだ。

ただ、言いかえれば、この日のピッチングでそうした声が出たことはこれまでを覆すものだった。田村の潜在能力の高さを知る機会となったのである。

 とはいえ、これだけ良いピッチングをしても、負けは負けなのだ。この日は味方打線がつながりを欠き、堅実なはずの関大北陽が2度の犠打を失敗するなど、いつもどおりではなかった。東海大仰星のエース・勢の巧みなピッチングに翻弄された。そういう展開になってしまった中でのたった1球の失投は、命取りになるのは、野球にはよくあることだが、それを田村丈が犯したこと、それがすべてだった。

 話は戻るが、田上を抑え、一死・二塁した後、安打と死球で満塁とし、7番・宮内に右翼前へ運ばれた。1-2からの真ん中のストレートだった。後続を抑えて、この1失点に抑えたことは彼の成長の証でもあるが、このたった一つの失点が、彼に突き付けられた現実なのである。

 「力がない。だから負けた。負けた責任は監督にある。田村には自信になった試合になったと思うけど、0点に抑えれば負けないということ。負けなければ、また試合ができたわけですからね。この悔しさを忘れずに、上の舞台でも活躍してほしい」と新納監督は、優しくもあり、厳しくもある言葉を田村に投げかけた。この言葉を彼がどう受け止めるのか。

 「打たれた球はインコースにストレートを投げるつもりが甘くなってしまった。ここ一番を決められなかったのは一番悔しいですね。上でも野球は続けたいと思っているので、この経験を生かしていきたい」。

 改めて、人生とは難しいものである。彼が評価を上げた試合が、高校生活最後の試合となってしまったのだから…。この現実を受け止めるのは時間がかかるだろうが、こんな言葉があることも、彼に伝えたい。

 「1球に笑い、1球に泣く。それが好投手の宿命なのだ」と。

(文=氏原 英明


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